(注 このページは京都大学時代に作成したものですが、有益な情報を含んでいるので残してあります)
英語論文の添削を教官に受ける前に
last update: 2001/02/08
文責: 垂水
上林研では、修士論文は原則英語で書いてもらうことになっています。また特別研究報告書(いわゆる卒論)は英語アブストラクトが必要です。その他にも英語の論文を投稿する機会は数多くあると思います。しかし、学生の英語論文を添削する際、いつもいつも同じような指摘ばかり繰り返してばかりになるので、教官としては少々うんざりしてしまいます。少なくとも、以下のことをチェックして、あるいは心がけてから、英語論文の添削を教官に依頼しましょう。日本語論文の参考になる部分もありますので、日本語で書く人も読んで下さい。
英文タイプの常識
, (カンマ) . (ピリオド) ; (セミコロン) : (コロン) の直後、左カッコの前、右カッコの直後には、必ずスペースを打って下さい。これは英文タイプの常識です。カンマの後ろにスペースがあってもなくても同じと思うのは、C言語の影響でしょうか?英文はC言語ではありません。TeX
も MS-Word も、その他あるゆる英文ワープロソフトも、この常識を前提で作られています。スペースが入っていないと見ためが汚くなるばかりでなく、スペルチェックが正しくかかりません。特にうっかりしやすいのは参考文献リストの中に頻出するカンマの直後です。
Section 2, Figure 5 などの数字の前にも必ずスペースを!
逆に、, ; : などの前にスペースを入れてはいけません。
: (コロン) ; (セミコロン) の使い方にはルールがありますが、意外に知らない人が多い。いったい、高校では何を教えているのか!こんなことはいろんな本や辞書に出ているのでここでわざわざ書きませんが、まずよく勉強してください。
スペルチェック、文法チェックをかける
スペルチェック、文法チェックはせっかくツールがあるのだから必ず使って下さい。スペルチェッカーは固有名詞など未登録の単語をたくさん指摘してきますし、文法チェッカーは一般に少々お節介すぎて直さなくても良いところまで指摘してきますが、それは我慢して下さい。他人に間違ったスペルの単語の指摘をさせる前に自分ができる範囲の我慢をするのは当然のことです。
スペルチェッカー
- UNIX: ispell など
- Windows: MS-Word のスペルチェック機能 (赤の波線が入る。)
文法チェッカー
- MS-Word のチェック機能 (緑の波線が入る)
- Correct Grammer
Tips
- TeX のソースを通常のテキストに戻して MS-Word にかけるには
nkf -e main.tex | egrep -v '^%' | detex > output.doc
のようにすると少しはましになります。
- 文法チェッカーは、受動態をつかっていると能動にしろと指摘してくることが多いのですが、必ずしもすべて能動にする必要はありません。ケースバイケースで判断してください。英語では能動の方が力強く説得力のある文体とされているのでこのような指摘をしてくるのです。
- 英日翻訳ソフトに自分の書いた英文をかけてチェックする、という方法もあるそうですが、試したことはありません。
口語表現をさける
- 短縮形 (isn't, We'll など) は使わない。
辞書のひきかた
- 和英辞典を引いたら、英々辞典、英和辞典で英語の意味を再確認してください。
- ある名詞につく前置詞、形容詞、動詞などを調べるには研究社の「英和活用大辞典」が便利です。(CD-ROMも出ているようです)
- オンラインの英々辞典には http://www.m-w.com/ があります。
- 文例を集めるには、Web から検索する方法もあります。AltaVista
を使うと、英文フレーズが exact match で検索できますので、例文を集めるのに便利です。たとえば、involved with の例を調べたければ
"involved with" をキーにして(ダブルクォートで囲って)検索します。他の検索エンジンでは、このようにしても involved
と with を別々のキーワードとして扱うものがありますので AltaVista を推奨します。(google でも同様のことが可能です。2005年追記)
接続詞の使い方
- And, But で文を始めない。口語的です。そのような論文もありますが、ネイティブでなければ真似しない方が無難。But
の代わりにはHowever を使います。文の途中はかまいません。
- 接続詞を多用しなくてもよい。日本語で文章を書く場合には、「しかし」「だが」「そこで」「つぎに」などよく使いますが、英文で同じ数の接続詞を使うと使いすぎている感じになります。順接については、Thus,
Therefore, Hence などがありますが、順接は接続詞がなくても自然につながるので接続詞を使わないことも考慮しましょう。逆接には、However
などがありますが、本当に逆接かどうかよく検討して下さい。つまり、文Aで言っていることや示唆していることが、それに続く文Bの言っていることや示唆していることと明らかに対立している場合が逆接なのであって、そうでない場合は逆接ではありません。我々の日常使う日本語では、この本来の逆接の関係ではなくても「だが」「でも」「しかし」「だけど」を使ってしまうことがあるので、それに惑わされないように。
- 接続詞は文頭になくともよい。 英語では、However, A is B.
と書くかわりに、A is, however, B. のように文中に接続詞を入れることができます。接続詞が文頭にあるより口調が良い(ただし、やや口語的らしい)。
- 分詞構文などはつかわない。 接続関係があいまいなので、使わないようにしましょう。高校で習ったので使いたくなるかもしれませんが、英文を書く初心者が使うべきものではありません。
冠詞の使い方
- 数えられる名詞か、数えられない名詞か、辞書で必ずチェックしてください。例えば
information, software, hardware, mail などは数えられません。
- 記号で識別されているものには冠詞がつきません。the module A や a module
A は間違い。単に module A です。the
Figure 3 とかも間違いです。
よく間違える例
- グループウェア関係ではよく出て来る動詞 communicate の使い方に注意。自動詞です。「誰々と通信する」は communicate with
〜。
- occur は自動詞。「X が原因で起こるエラー」を an error occurred by X とするのは間違いです。
著者をどう呼ぶか
- 修士論文の場合、著者は一名なので the author と書いて後で he, she で受けるのが正解ですが、we
でも問題ありません。後で修正して国際会議などに投稿することを考えると、we にしておく方が便利です。
- 謝辞では、主語は必ず the author になります。( I は使わない)
参考文献リスト
- 書き方は、ACM の論文誌などを参考にしてください。
- 著者名を "姓, 名" の順で書く場合と、"名 姓" の順で書く場合がありますが、まぜて使わない。統一すること。
- 参考文献リストは仕上げのときにつけるのではなく、下書きの最初の段階から作り、文献番号等を入れていくこと。
これは、どの部分がどの文献を参考にして書かれているのかを常に意識し、査閲者にもわかるようにするためです。
その他
- 章や節の参照においては、やはり後で修正して国際会議に投稿することを考え、フレキシブルな対応にしておいてください。例えば、chapter は使わずすべて
section で統一する、LaTeX の場合セクション番号に \label と \ref を使うなどです。
- 間違いではないが、中学の英作文の悪影響か、各ページに一回ずつくらい not only 〜 but also が出て来る人がいる。余裕があれば他の書き方も考えよう。
the + 比較級 〜, the + 比較級 〜 も同様で、これは if を使って書いた方がわかりやすい。
- 一つのパラグラフの最初の文を読むと、そのパラグラフに何が書いてあるかがわかるような書き方が良い、らしい。日本語は一番言いたいことが最後に出て来る言語だが英語はその逆で、文章の構成においてもやはり最初が重要。そのように書くと絶対にわかりやすい。
- 過去形か、現在完了か。この論文に関係する仕事で開発したものは、We have developed XXX. この論文の仕事以前にやったものは We
developed XXX. と考えるとわかりやすい。
参考文献
- 小田麻里子、味園真紀、英語論文すぐに使える表現集、ベレ出版、1999, ISBN 4-939076-06-7, (1900円)
→ 最近みつけた。わりと役にたちそう。
- Huckin and Olsen, English for Science and Technology, A Handbook for Nonnative
Speakers, McGraw-Hill, 1983, ($41)
→ 昔々買った。Non-native 向けだが日本人向けではないので、たとえば「フランス人にありがちな間違い」なども出ている。ヘビーな教科書なので辞書的には使えない。
- Michael Houle, 「日本人の技術英語」 bit Feb. 1993
→ このページをみた友人からおしえてもらいました。
- Strunk and White "The Elements of Style" ISBN 0-02-418200-1
→ このぺージを見た友人から教えてもらいました。